セラピストにむけた情報発信



本紹介:「疑似科学入門」ほか



2009年2月27日

今回ご紹介する本は,
「科学的エビデンスに基づくリハビリテーション」という考え方がポピュラーな今,「科学的とは何か」を客観的に考える上で参考となる本です.


池内了 「疑似科学入門」岩波新書.2008


この本で著者は,世の中には“科学”という名のもとに,誤った,偏った情報が氾濫していること,そして私たちがそのような情報を客観的に判断することなく鵜呑みにしている事実に対して,警鐘を鳴らしています.

著者は疑似科学を,「科学的な装いを取ってはいるものの,科学の本筋から離れた非合理を特徴とするものと定義しています.著者によれば,疑似科学は以下の3種類に分類できます.第1に,占い,超能力,オカルトなど,精神現象や心霊現象の実在性を主張するもの,第2に,水やマイナスイオン,ゲルマニウムなど,主として商品の購買意欲を高めるために,科学の手法を悪用するもの,第3に,気象変動や環境問題,生態系や人間の心の問題のように,あまりに複雑な要素が絡む対象に対して,比較的単純なシステムに対して適用しうる科学的手法を適用してしまうもの,となります.

本では,3種類の問題それぞれに対して,豊富な事例をもとに疑似科学が受け入れられてしまう理由が述べられています.最近では空前の脳科学ブームに便乗して,TV番組で様々な商品が“脳科学により実証された効果”のある商品として宣伝されています.このような時代に,科学・統計・実験といった言葉を乱用する風潮を批判する本書は,とてもタイムリーな1冊といえるでしょう.

この本でも触れられているように,人間は非常に複雑なシステムで構成されていますので,その振る舞いを“科学的に(要素還元的に)”記述することは,決して容易ではありません.慎重に実験デザインを吟味しない限り,偶然的な誤差で見出された現象が,統計的に支持され,誤った情報を発信しかねません.

私たちの研究室では,多くの理学療法士の院生と研究する機会に恵まれ,臨床に還元しうる実験をしたいと,日々議論を重ねています.厳密に科学的なことを追及すれば,その実験系は非常にシンプルなものとなり,臨床応用には必ずしも直結しない実験を積み重ねる心配があります.一方で,臨床とのつながりが見えやすい実験を計画すると,そこには絶えず疑似科学的な結果を出してしまう危険性が生じます.「科学的エビデンスに基づくリハビリテーション」には,このような問題が見事に解決された実験の存在が不可欠と思いますが,それを実践するのは決して容易ではありません.私たちの研究も未だ問題の多い発展途上の研究です.このような問題意識を持ちながら誠実に研究を積み重ねることで,ひとつの形を示すことができればと考えております.

なお疑似科学の問題に興味がある方には,合わせまして以下の2冊もお薦めです.特に2は,心理学的な理論を雑学的に理解するにはとても良い本であり,タイトルの印象よりもずっと真面目に書かれていて参考になります.

1. 米山公啓 「騙される脳〜ブームはこうして発生する」 扶桑社新書.2007

2. セルジュ・シコッティ 「急いでいるときに限って信号が赤になるのはなぜ?」東京書籍.2006 



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